そんなこともあったね 002「とりとめのない昼の爆発」
2017年3月22日(水)
写真 / ともまつりか , 文章 / みち
目が覚めると私は友人の家にいて、友人のベッドの上でうすい毛布に包まれていた。吸った一息があたたかいので、昼が近いくらいだなと思う。私が友人の家に泊まりに行くことはひと月も前から決まっていたことで、「スプラッタ映画のDVDを観よう」とか「大袋のポテトチップスを買おう」とか小さな願望、一人だと心細くて遂行できないような、しかし叶わなくてもまったく困らないくらいの願望をお互いに言い合い、楽しみにしていたのだった。計画のとおり私と友人はスプラッタ映画を観て大袋のポテトチップスを食べて、その後で念入りに歯磨きをした。来客用の布団が無いので、たった一つのベッドに恋人同士のような距離感で横になった。終わりのない話を欠伸で無理やり終わらせた。でないと朝になってしまいそうだったので。
友人が寝ていたところに触れると、体温のあった感じが微かにする。
「おー」とあてのない声をあげてみると、台所の方から「おー」と返る。「なにをしているのー」と言うと、「あたためているー」と返る。「なにをー」と言うと、「煮物だな」と返ったので、「なんの煮物」と掘り下げると、「芋とか」と曖昧に、返る。段々お醤油っぽい匂いがしてきて、その匂いがややこんがりしたふうでもあったので「火加減気をつけるんだよ」と言って、うすい毛布をぎゅっと身体に手繰り寄せた。手繰り寄せて手繰り寄せて、可能なかぎり丸く小さく身体をかため、もうこれ以上は小さくなれない、の、もう少し先、潰れてしまいそうなところまで来たら一気に四肢をひらく。爆発するみたいに。粉々になってもいいという気持ちで、「わあっ」と、声も出しながら。そうすると指先までめざめた感じがする。いつもの習慣。「えっなにー」と友人の声が飛んだ。
「あけてテーブル」と友人がうつわを持って走ってくる。「うすいの、底が。どんぶり。熱いから急いで」と言うので慌ててテレビのリモコンとエアコンのリモコンを隅に寄せる。置かれたどんぶりから豊かに湯気が上がった途端、強烈に幸せな感じがしてたまらなくなり、煮物をあたためてくれた友人の背中を思う。
そうしてまた取り留めのない話を始める。「誰かと一緒に歯磨きする時、なんとなくいつもより長めに磨いちゃうんだよね」「昨日から芋ばっかり食べてるね」など。
少し香ばしいお醤油味、まだ始まったばかりの昼。
●
Photo by / ともまつ りか
フォトグラファー
text by / michi
エディトリアルデザイナー
TAG : RIKA TOMOMATSU , michi , そんなこともあったね , こらむ
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