ニューユタカ #002「食べることは生きること」
2015年10月2日(金)
TEXT / 藤原 亮 / フジロッ久(仮)
お風呂の替えが音楽ではきかないように、読書の替えがパーティーではきかないように、ごはんでないとできないこと。もちろんあります。では、おいしいものを食べることでしか成らないことをご存知でしょうか?もちろん答えはイエス。今回は友人から聞いたそんな話。タイトルをつけるなら「食べることは生きること」なのですが、なかなか手強いスケール感。身構えてしまいます。
自分とはほど遠く感じられる言葉も、ある人が口にした途端、息を吹き返して暴れ出す。自分が同じ言葉を発したところでぺらぺらのすっかすか。どっちもよくあります。「食べることは生きること」はぼくにとってまさにそれです。
この人が言わないと力を持たない。それは発する言葉とどのように生きてきたかがしっかり重なって強度が生まれているということで、語彙や文才や整理して話す才能とは関係がない。食後に器を重ねて運ぶときのように、はなしとひとがちゃんと重なっていると安定感があります。
そのぴったり重なっている状態が当たり前になっているのが「自分の言葉でしゃべるひと」という人種で、それができていればだいたいのことはオーケー。いつかほんとうの友人や伴侶に巡り合って、気のいい仲間と世界をサーフできるから。
そんな自分の言葉でしゃべる友人のひとりに、えりちゃんという愉快な下町っ子がいるのですが、食べ物と家族の話が全部おもしろくて。その中でよく「食べることは生きること」という言葉が出てきます。家族の座右の銘のようなものだそう。自分の中にないものだから、自分なりに考えてはみるのですが、食べないと死んじゃうよ、くらいのところにしか届きません。食べなかったことも死にそうだったこともないからぼんやりとしたもんです。「生きること」が大きいから、いちど話を「たべる」に絞ってみる。好きな食べ物はなんですか?ぼくはおいしけりゃなんでも好き、すこしお腹減るとなんか食べてる食いしん坊で、好きな食べ物は時期と気分でどんどん変わります。今食べたいのはチキン南蛮かタコライス。マンゴーラッシーかコロナビールがほしいところ。安定したベストを挙げるならどこの寿司だのそこの蕎麦だの、台湾の、あの日のケーキ、お母さんのカレー、あの人あの店あの味あるんですが、それはお会いするときまで取っておきましょう。とにかくおいしいごはんが好き。
でも、音楽がうまく作れて集中してるときなんか、おいしくごはん食べると止まっちゃうんで菓子パンかじって我慢したり。忙しいとコンビニ。お金ないと豆腐と納豆。僕にとって食べるってそのくらいの感じです。
ちょっとヒントがでてきたかも。「音楽を作る」から「眠い」にフォーカスを変えるくらいには、「食べる」が「生きる」にはたらきかける力がある、と言いなおすと「食べることは生きること」にも手が届く気がするような。えりちゃんは両親どちらの親戚も実家から二駅圏内のところに住んでいて、大勢で仲良く暮らしています。
「ねえ、ふっちゃん( ← おれです藤原です)、うちのゴローちゃんの話したっけ。」
あのね、おじいちゃんが突然犬を連れて帰ってきたの。一目惚れして、ゴローちゃんて名前つけて、それはもうとてもとても可愛がって。でもうちのおじいちゃん昔気質っていうか、ベタベタするような人じゃなくて、大好きなのにゴローちゃんにも素っ気ないの。でもゴローちゃんもそれをわかってておじいちゃんに特別懐いてて。親戚みんなもゴローちゃんのこと大好きで、家族みたいに暮らしてたのね。みたいにっていうか、家族として!
ふっちゃんペット飼ったことある?ずっと一緒にいると、そろそろ死ぬなってわかるって言うじゃない。あれってほんとで、何年もして、ゴローちゃんたぶん今日だな、って日が来て。
朝からおじいちゃんソワソワして、耐えきれなかったんだね、パチンコ行くって言って、止めたんだけど出てっちゃって。親戚のみんなはゴローちゃんの話を聞きつけてどんどん集まってきて。みんなおじいちゃんがそういう人だってわかってるから、馬鹿だなあって言いながら、それぞれの形でゴローちゃんと過ごすの。励ましたり、花をたくさん持ってきたり、ずっと見つめていたり。朝からすこしずつ、その頃までには十何人、おじいちゃん以外みんないるんじゃないかってくらいでゴローちゃんを看取ったんだけど、ついにゴローちゃんが息を引き取って皆泣いたり黙ったりする中おばあちゃんが電話をかけたの。どこに電話かけたと思う?
そうなの!葬儀屋さんかと思ったら、お寿司の出前。みんなこんなときにお寿司なんか食べれないよって言うんだけど、おばあちゃん、こんなときだからおいしいもの食べるんだよ!って、よくわかんないけどそうこうしてるうちにお寿司も届いちゃって、泣きベソかきながらみんなでお寿司食べて。
そのお寿司が忘れられないよ。とーってもおいしかった。
お寿司だからやっぱりおいしくて、おいしいから気分と裏腹に力も元気も出てしまって、みんなゴローちゃんにこころよくいってらっしゃいを言えたんだね。誰もゴローちゃんのこといやな感じで引きずったりしてないの。」
彼女の話している感じだけでも相当なもので、もうすっかり感動して、おいしさパワーでけー、たべるって半端ねー、って思ってたら、とどめのひとこと。
「おじいちゃん、パチンコ行っちゃってお寿司食べてないからずっとそのこと引きずってて、いまだに一切ゴローちゃんの話しないの。」
なんてよくできた話!
ひとは、大好きな家族が死んだとき何を食べるんでしょうか?この話を聞いてから、死は、おいしいごはんで受けとめるのが正解のような気がしています。
「食べることは生きること。それが自分のニューユタカみたいなもの」
話がそう締め括られたときにはすっかりアッパー、落ち着きをなくしていたぼくはうんうん頷き倒したのですが、その場を離れると自分はそんなふうに生きてきてなくて、口にするにはほど遠いです。
「性格は顔に出る、生活は体型に、本音はしぐさに、感情は声に、落ち着きのなさは足に出る」などなど言いますが、顔に出るのはその人の履歴、どのように生きてきたかの総括が素のわたし。たしかに彼女はやさしい顔で、死を食事で受け止めるような機転とユーモアを持ち合わせた素敵な人です。移動の合間にコンビニで済ませても食事だし、愛する家族の死の中で食べる寿司も食事。毎日お腹が減って、毎日食べているけど、値段や栄養のほかにも気にしてみることがあるもんだ。
教科書に書いておいてくれたら、と思うんですが、何の教科書に書いてあれば学べたでしょうか?「当たり前だけど重要なこと」は、彼女がそうしたように、自分で身に沁みさせるしかないのかも。
食卓を囲むと思い出す、食べる魔法、おいしい不思議のはなしでした。
もうすっかり空高く秋、ほんの一ヶ月だけ活躍するお気に入りの上着で仕事に行ってまいります。また来週!
お風呂の替えが音楽ではきかないように、読書の替えがパーティーではきかないように、ごはんでないとできないこと。もちろんあります。では、おいしいものを食べることでしか成らないことをご存知でしょうか?もちろん答えはイエス。今回は友人から聞いたそんな話。タイトルをつけるなら「食べることは生きること」なのですが、なかなか手強いスケール感。身構えてしまいます。
自分とはほど遠く感じられる言葉も、ある人が口にした途端、息を吹き返して暴れ出す。自分が同じ言葉を発したところでぺらぺらのすっかすか。どっちもよくあります。「食べることは生きること」はぼくにとってまさにそれです。
この人が言わないと力を持たない。それは発する言葉とどのように生きてきたかがしっかり重なって強度が生まれているということで、語彙や文才や整理して話す才能とは関係がない。食後に器を重ねて運ぶときのように、はなしとひとがちゃんと重なっていると安定感があります。
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そのぴったり重なっている状態が当たり前になっているのが「自分の言葉でしゃべるひと」という人種で、それができていればだいたいのことはオーケー。いつかほんとうの友人や伴侶に巡り合って、気のいい仲間と世界をサーフできるから。
そんな自分の言葉でしゃべる友人のひとりに、えりちゃんという愉快な下町っ子がいるのですが、食べ物と家族の話が全部おもしろくて。その中でよく「食べることは生きること」という言葉が出てきます。家族の座右の銘のようなものだそう。自分の中にないものだから、自分なりに考えてはみるのですが、食べないと死んじゃうよ、くらいのところにしか届きません。食べなかったことも死にそうだったこともないからぼんやりとしたもんです。「生きること」が大きいから、いちど話を「たべる」に絞ってみる。好きな食べ物はなんですか?ぼくはおいしけりゃなんでも好き、すこしお腹減るとなんか食べてる食いしん坊で、好きな食べ物は時期と気分でどんどん変わります。今食べたいのはチキン南蛮かタコライス。マンゴーラッシーかコロナビールがほしいところ。安定したベストを挙げるならどこの寿司だのそこの蕎麦だの、台湾の、あの日のケーキ、お母さんのカレー、あの人あの店あの味あるんですが、それはお会いするときまで取っておきましょう。とにかくおいしいごはんが好き。
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でも、音楽がうまく作れて集中してるときなんか、おいしくごはん食べると止まっちゃうんで菓子パンかじって我慢したり。忙しいとコンビニ。お金ないと豆腐と納豆。僕にとって食べるってそのくらいの感じです。
ちょっとヒントがでてきたかも。「音楽を作る」から「眠い」にフォーカスを変えるくらいには、「食べる」が「生きる」にはたらきかける力がある、と言いなおすと「食べることは生きること」にも手が届く気がするような。えりちゃんは両親どちらの親戚も実家から二駅圏内のところに住んでいて、大勢で仲良く暮らしています。
「ねえ、ふっちゃん( ← おれです藤原です)、うちのゴローちゃんの話したっけ。」
あのね、おじいちゃんが突然犬を連れて帰ってきたの。一目惚れして、ゴローちゃんて名前つけて、それはもうとてもとても可愛がって。でもうちのおじいちゃん昔気質っていうか、ベタベタするような人じゃなくて、大好きなのにゴローちゃんにも素っ気ないの。でもゴローちゃんもそれをわかってておじいちゃんに特別懐いてて。親戚みんなもゴローちゃんのこと大好きで、家族みたいに暮らしてたのね。みたいにっていうか、家族として!
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ふっちゃんペット飼ったことある?ずっと一緒にいると、そろそろ死ぬなってわかるって言うじゃない。あれってほんとで、何年もして、ゴローちゃんたぶん今日だな、って日が来て。
朝からおじいちゃんソワソワして、耐えきれなかったんだね、パチンコ行くって言って、止めたんだけど出てっちゃって。親戚のみんなはゴローちゃんの話を聞きつけてどんどん集まってきて。みんなおじいちゃんがそういう人だってわかってるから、馬鹿だなあって言いながら、それぞれの形でゴローちゃんと過ごすの。励ましたり、花をたくさん持ってきたり、ずっと見つめていたり。朝からすこしずつ、その頃までには十何人、おじいちゃん以外みんないるんじゃないかってくらいでゴローちゃんを看取ったんだけど、ついにゴローちゃんが息を引き取って皆泣いたり黙ったりする中おばあちゃんが電話をかけたの。どこに電話かけたと思う?
そうなの!葬儀屋さんかと思ったら、お寿司の出前。みんなこんなときにお寿司なんか食べれないよって言うんだけど、おばあちゃん、こんなときだからおいしいもの食べるんだよ!って、よくわかんないけどそうこうしてるうちにお寿司も届いちゃって、泣きベソかきながらみんなでお寿司食べて。
そのお寿司が忘れられないよ。とーってもおいしかった。
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お寿司だからやっぱりおいしくて、おいしいから気分と裏腹に力も元気も出てしまって、みんなゴローちゃんにこころよくいってらっしゃいを言えたんだね。誰もゴローちゃんのこといやな感じで引きずったりしてないの。」
彼女の話している感じだけでも相当なもので、もうすっかり感動して、おいしさパワーでけー、たべるって半端ねー、って思ってたら、とどめのひとこと。
「おじいちゃん、パチンコ行っちゃってお寿司食べてないからずっとそのこと引きずってて、いまだに一切ゴローちゃんの話しないの。」
なんてよくできた話!
ひとは、大好きな家族が死んだとき何を食べるんでしょうか?この話を聞いてから、死は、おいしいごはんで受けとめるのが正解のような気がしています。
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「食べることは生きること。それが自分のニューユタカみたいなもの」
話がそう締め括られたときにはすっかりアッパー、落ち着きをなくしていたぼくはうんうん頷き倒したのですが、その場を離れると自分はそんなふうに生きてきてなくて、口にするにはほど遠いです。
「性格は顔に出る、生活は体型に、本音はしぐさに、感情は声に、落ち着きのなさは足に出る」などなど言いますが、顔に出るのはその人の履歴、どのように生きてきたかの総括が素のわたし。たしかに彼女はやさしい顔で、死を食事で受け止めるような機転とユーモアを持ち合わせた素敵な人です。移動の合間にコンビニで済ませても食事だし、愛する家族の死の中で食べる寿司も食事。毎日お腹が減って、毎日食べているけど、値段や栄養のほかにも気にしてみることがあるもんだ。
教科書に書いておいてくれたら、と思うんですが、何の教科書に書いてあれば学べたでしょうか?「当たり前だけど重要なこと」は、彼女がそうしたように、自分で身に沁みさせるしかないのかも。
食卓を囲むと思い出す、食べる魔法、おいしい不思議のはなしでした。
もうすっかり空高く秋、ほんの一ヶ月だけ活躍するお気に入りの上着で仕事に行ってまいります。また来週!
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TAG : ニューユタカ , Ryo Fujiwara , こらむ
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2015.10.10 SAT | こらむ
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