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そんなこともあったね 004「悲喜こもごもの」

2018年5月15日(火)
写真 / ともまつりか , 文章 / みち

そんなこともあったね 004「悲喜こもごもの」

中学の同級生で、社会人になってからも友人関係が続いている彼女と三週間ぶりくらいに会った時、特に深く考えず喋っていたらいつのまにか話す内容全部が愚痴になっていた。いちど言い始めると止まらなくて、ずうっとずうっと愚痴を垂れ流し続けていたら「待って」と制止が入り、顔をガビガビに強張らせた彼女に「そういうの聞いてるの嫌だ」と言われてしまった。ごめんと言えばよかったのに口から出たのが「でもさ」だった。それで完全にまずいことになったのは分かった。

渋谷の大きなドトールの、噴水を取り囲んで並ぶ席が私たちは大好きで、いつもそこで色んな話をして笑ったものだったけど、その時の彼女は黙って立ち上がるとそのまま帰ってしまった。しばらく呆然とした後やばいと思って「ごめんね」とラインしてみても既読にならない。

なんの愚痴を言ったんだっけと思い返せば仕事、恋愛、家族、寒暖差、健康、芸能人、差別、交通ルール、もはや地球丸ごとの愚痴みたいな感じだった。その間彼女は一言も話さなかった。彼女は言葉の軽い重いを感じ取るのが上手いので、さっき送ったとりあえずのごめんねの軽さはきっとばれている。残りのコーヒーをちょっと飲んでみたらいつもと同じドトールのコーヒーの味がしたけどこういう時の「いつもと同じ」は一層悲しみが増すだけである。

店を出て駅に向かうまでの間沢山の人とすれ違う。女子高生の集団や子連れの家族や手を繋いだカップルやサラリーマンや一人で買い物してる人。みんな他人で誰も私が彼女を嫌な気持ちにさせたことなど知らないし知る由も無いのに、誰も気づかないでくれと思いながら歩いた。

ちょうど駅に着いた時、彼女から電話がかかってきた。恐る恐る出ると「うち来るかい」と言ったきり彼女が黙ったので、「はい」と返した。

何度も行ったことがあるので道は覚えている。インターホンを押し、少しして彼女がドアを開けてくれた。その時だった、猛烈に腹が減ったのは。

「今のやばい音おなか?」と彼女が笑い、私は「ごめん」と言ったあと思わずしくしく泣いた。

「小皿に薄く水張って、その上に箸置いて、さらにその上に肉まん乗せて、さらにさらにその上に濡らしたキッチンペーパー乗せて、ラップしてチンすると美味しくなるの、なんちゃって蒸し器みたいな感じ、漫画で読んだ」と説明しながら彼女が肉まんを温めてくれた。

30パーセントオフってシールの貼ってあったやつ。彼女はそういうのを隠さないたちで、私はそこに憧れる。

「愚痴るなって言いたいんじゃないんだけど」
「分かる、ごめん」
「なんていうか」
「なんていうかね」
「なんていうかね~」
「うん~……」

沈黙を挟みながらそう話したあたりでチンが終わったので二人で肉まんを食べた。30パーセントオフとは到底信じられないくらい美味しい肉まんだった。

「なんていうか」の先に何と続けたらいいのか私たちはしばらく言葉にできなかったけど、先に肉まんを食べ終えた彼女がまた「なんていうか」と話し始めた。

「悲喜こもごもあって当たり前だけど、天秤がなんとなく釣り合うように、どちらかだけじゃなくて、どちらも言葉にしていけばいいと思う。完全なとんとんは無理でも、とんとんを目指したほうがいい。今日は悲のほうだけ多すぎたんじゃない」

「たしかに今の私の天秤は完全に傾いている」
「悲喜こもごもの喜のほうを頼むよ」

天秤の真似をして彼女が左肩をぐっと下げる。
悲喜こもごもの喜のほうについて、私は考える。

「電話かけ返してくれて嬉しかった。うち来るかいって言ってくれて嬉しかった。おなかの音笑ってくれて安心した。肉まんあっためてくれて嬉しかった。ふかふかで柔らかくて温かくて美味しかった」

ひとつ言う度に彼女は左肩をぐいぐいと上げ、顔を真っ赤にしながら「だいぶトントン」と言った。

そんなこともあったね 004「悲喜こもごもの」

中学の同級生で、社会人になってからも友人関係が続いている彼女と三週間ぶりくらいに会った時、特に深く考えず喋っていたらいつのまにか話す内容全部が愚痴になっていた。いちど言い始めると止まらなくて、ずうっとずうっと愚痴を垂れ流し続けていたら「待って」と制止が入り、顔をガビガビに強張らせた彼女に「そういうの聞いてるの嫌だ」と言われてしまった。ごめんと言えばよかったのに口から出たのが「でもさ」だった。それで完全にまずいことになったのは分かった。

渋谷の大きなドトールの、噴水を取り囲んで並ぶ席が私たちは大好きで、いつもそこで色んな話をして笑ったものだったけど、その時の彼女は黙って立ち上がるとそのまま帰ってしまった。しばらく呆然とした後やばいと思って「ごめんね」とラインしてみても既読にならない。

なんの愚痴を言ったんだっけと思い返せば仕事、恋愛、家族、寒暖差、健康、芸能人、差別、交通ルール、もはや地球丸ごとの愚痴みたいな感じだった。その間彼女は一言も話さなかった。彼女は言葉の軽い重いを感じ取るのが上手いので、さっき送ったとりあえずのごめんねの軽さはきっとばれている。残りのコーヒーをちょっと飲んでみたらいつもと同じドトールのコーヒーの味がしたけどこういう時の「いつもと同じ」は一層悲しみが増すだけである。

店を出て駅に向かうまでの間沢山の人とすれ違う。女子高生の集団や子連れの家族や手を繋いだカップルやサラリーマンや一人で買い物してる人。みんな他人で誰も私が彼女を嫌な気持ちにさせたことなど知らないし知る由も無いのに、誰も気づかないでくれと思いながら歩いた。

ちょうど駅に着いた時、彼女から電話がかかってきた。恐る恐る出ると「うち来るかい」と言ったきり彼女が黙ったので、「はい」と返した。

何度も行ったことがあるので道は覚えている。インターホンを押し、少しして彼女がドアを開けてくれた。その時だった、猛烈に腹が減ったのは。

「今のやばい音おなか?」と彼女が笑い、私は「ごめん」と言ったあと思わずしくしく泣いた。

「小皿に薄く水張って、その上に箸置いて、さらにその上に肉まん乗せて、さらにさらにその上に濡らしたキッチンペーパー乗せて、ラップしてチンすると美味しくなるの、なんちゃって蒸し器みたいな感じ、漫画で読んだ」と説明しながら彼女が肉まんを温めてくれた。

30パーセントオフってシールの貼ってあったやつ。彼女はそういうのを隠さないたちで、私はそこに憧れる。

「愚痴るなって言いたいんじゃないんだけど」
「分かる、ごめん」
「なんていうか」
「なんていうかね」
「なんていうかね~」
「うん~……」

沈黙を挟みながらそう話したあたりでチンが終わったので二人で肉まんを食べた。30パーセントオフとは到底信じられないくらい美味しい肉まんだった。

「なんていうか」の先に何と続けたらいいのか私たちはしばらく言葉にできなかったけど、先に肉まんを食べ終えた彼女がまた「なんていうか」と話し始めた。

「悲喜こもごもあって当たり前だけど、天秤がなんとなく釣り合うように、どちらかだけじゃなくて、どちらも言葉にしていけばいいと思う。完全なとんとんは無理でも、とんとんを目指したほうがいい。今日は悲のほうだけ多すぎたんじゃない」

「たしかに今の私の天秤は完全に傾いている」
「悲喜こもごもの喜のほうを頼むよ」

天秤の真似をして彼女が左肩をぐっと下げる。
悲喜こもごもの喜のほうについて、私は考える。

「電話かけ返してくれて嬉しかった。うち来るかいって言ってくれて嬉しかった。おなかの音笑ってくれて安心した。肉まんあっためてくれて嬉しかった。ふかふかで柔らかくて温かくて美味しかった」

ひとつ言う度に彼女は左肩をぐいぐいと上げ、顔を真っ赤にしながら「だいぶトントン」と言った。

Photo by  / ともまつ りか
フォトグラファー

東京のインディーズロックグループ、carpool のベース。写真撮ります。フジロッ久(仮)、カネコアヤノ、花泥棒のアーティスト写真など。

text by  / michi
エディトリアルデザイナー

1992年山形県生まれ。東京都在住。 エディトリアルデザイナー。三姉妹の次女。

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