よむ DAYZ.

おいしいだいずでくらしをゆたかに

DAYZ. NEWS

Q DAYZ. SEARCH

準備中

  • DAYZ. ONLINE SHOP
  • DAYZ. Twitter
  • DAYZ. Facebook

よむ DAYZ.

メニュー

おいしいだいずでくらしをゆたかに

loading

そんなこともあったね #005 コンクリの色

2019年2月16日(土)
写真 / ともまつりか , 文章 / みち

そんなこともあったね #005 コンクリの色

一歩も動きたくない時と、どこかに行ってしまいたい時と、二通りの夜があって、今日はどこかに行ってしまいたくなったので部屋を出た。そういうふうに始まる散歩がたまにある。「行ってしまいたい」という気持ちだけがあって、「どこに」というのはいつも無い。

想像より少しだけ現実の外気の方が冷たかったけど上着は着ない。正直、この時期にみんなが着ている軽めの上着は自分は無くても平気で生きていける。羽織る日もあるけど防寒よりも擬態の意が強い。「上着忘れたの?」感から逃れるというか。街で見かける、冬でも半袖のTシャツで闊歩する外国人は、自分には眩しくてかなわない。

どこかに行ってしまいたい時の散歩で重要なのは最初の数分間とにかく頭をからにすること。部屋を出た瞬間からどこかに行ってしまいたい自分との対峙は始まっている。できるだけ何も、左右どっちに進もうかとか含めて何も考えない。数分後に「あ、左に進んでたんだな」と気付くくらいが理想なのだ。

しばらく歩いてからふと辺りを見回すと、今回は右の方に進んでいた。この辺は街灯の間隔が広すぎて、暗闇に自分の姿が溶けていくのとまたぼうっと現れるのが一定のテンポで繰り返される。川の近く。車も人も全然通らない。川の音ってなんとも言えない不思議さがあるよなと思う。川床の石に水がぶつかる、小さな衝撃が無数に集まった音。足元の石を拾って投げると思ったよりも素直に「どぷん」って、いかにも人工的な音がした。

別に嫌なことがあったわけでもなくて、忘れたいことがあるわけでもなくて、この「どこかに行ってしまいたい」感じが何から来るのかは全然分からない。分からないなりに受け止めてこうして歩きまわることで段々と自分の内側が整っていく気がする。気がするだけで実際は分からない。

かと思えば今度は急に歩くのをやめてみたくなってしまった。「一歩も動きたくない」のと「どこかに行ってしまいたい」のと、逆のようでいてこの二つはすごく近いところにある感覚なのかもしれない。そのまま寝そべってしまう。歩きたくない時は、歩かない。

背中越しにコンクリートの冷たくてかたくてごつごつしたのが伝わってくる。コンクリの色って近くで見ると複雑で、単なる灰色じゃないって気付いた。何分くらいそうしていたか、さすがに背中の方からじわじわと冷えてきたので立ち上がってまた歩き始める。「今日は上着着たらよかったかもしんない」と思った。

行きの時は頭をからにしていたので全然視界に入っていなかったんだけど、道の途中にローソンがあったのでぬるっと入った。店内を一周するとパピコに目がとまって、寒いんだけど、いいやと思って買って出る。

二本とも自分で食ったると意気込んで店を出るなり一本くわえて歩いていると、ばったり友達と出くわして「えーなにやってんの」と声をかけられた。友達は上着を着ていた。「なんもしてないよ」って言った途端、どこかに行ってしまいたい自分も一歩も動きたくない自分も誰とも半分こしないって思ってた自分もふっと消えていってしまって、ローソンの袋からもう一本のパピコを出して、初めからそうしようと思ってたみたいにして「あるけど」って渡した。

Photo by  / ともまつ りか
フォトグラファー

東京のインディーズロックグループ、carpool のベース。写真撮ります。フジロッ久(仮)、カネコアヤノ、花泥棒のアーティスト写真など。

text by  / michi
エディトリアルデザイナー

1992年山形県生まれ。東京都在住。 エディトリアルデザイナー。三姉妹の次女。

TOP

関連記事

そんなこともあったね 004「悲喜こもごもの」

そんなこともあったね 004「悲喜こもごもの」

Column by : ともまつ りか , michi

中学の同級生で、社会人になってからも友人関係が続いている彼女と三週間ぶりくらいに会った時、特に深く考えず喋っていたらいつのまにか話す内容全部が愚痴になっていた。いち…

つづきをよむ

2018.05.15 TUE

こらむ

2018.05.15 TUE    |    こらむ

そんなこともあったね 003「今は存在しない春巻きのこと」

そんなこともあったね 003「今は存在しない春巻きのこと」

Column by : ともまつ りか , michi

駅から十五分くらい歩いたところにある映画館へ一緒に行ったのは去年の冬のこと、その日は晴れのわりに風がキンと冷たかったので、滅多に乗らないバスに乗ったのだった。 「眩…

つづきをよむ

2017.06.14 WED

こらむ

2017.06.14 WED    |    こらむ

そんなこともあったね 002「とりとめのない昼の爆発」

そんなこともあったね 002「とりとめのない昼の爆発」

Column by : ともまつ りか , michi

 目が覚めると私は友人の家にいて、友人のベッドの上でうすい毛布に包まれていた。吸った一息があたたかいので、昼が近いくらいだなと思う。私が友人の家に泊まりに行くことは…

つづきをよむ

2017.03.22 WED

こらむ

2017.03.22 WED    |    こらむ

そんなこともあったね 001「卵焼き」

そんなこともあったね 001「卵焼き」

Column by : ともまつ りか , michi

実家は山の中にあって、いちばん近い駅までも、歩いたらけっこうな時間がかかった。 電車は東京で走っているそれに比べて車両が少なかったし、ボタンを押さないとドアが開かな…

つづきをよむ

2017.02.13 MON

こらむ

2017.02.13 MON    |    こらむ

編集者・スタッフを募集しております。

おいしいだいずでくらしをゆたかに「DAYZ.」では、取材をお手伝いしてくれる編集者やライター、おもしろい企画を考えてくれるディレクターや、さまざまなジャンルのスタッフ・クリエイター・アーティストを常に募集しております。
自由な発想で、好きな土地で、好きな時間に活動いただけます。
おいしいものが好きなひと、街やひとが好きなひとなど、募集しております。
お住まい・経験・年齢は問いません。何ができるかわからなくても構いません。
気軽に まで、お問い合わせくださいませ。

TOP

編集者・スタッフを募集しております。

おいしいだいずでくらしをゆたかに「DAYZ.」では、取材をお手伝いしてくれる編集者やライター、おもしろい企画を考えてくれるディレクターや、さまざまなジャンルのスタッフ・クリエイター・アーティストを常に募集しております。

自由な発想で、好きな土地で、好きな時間に活動いただけます。

おいしいものが好きなひと、街やひとが好きなひとなど、募集しております。

お住まい・経験・年齢は問いません。何ができるかわからなくても構いません。

気軽に まで、お問い合わせくださいませ。