ニューユタカ #004「ピータン豆腐と茹でゴマ団子」
2015年10月26日(月)
TEXT / 藤原 亮 / フジロッ久(仮)
左が元希くん / PHOTO:RIKA TOMOMATSU
先週はおやすみいただきまして。島根にライブに行っておりました。ぼくのバンドは絶賛全国ツアー中です。毎週末どこかでライブをしては、いい気になっております。ということで今回は長い移動の車内であられもないことばかり考えてました、のツアー雑感です。
高橋元希くんというたくましく愉快な人がいて、何を隠そうその同じバンドのメンバーなのですが、彼と僕はよく演奏の中で同じメロディーを一緒に歌います。ハモる、コーラス、という役割でなく、同じメロディーを同じ高さで歌います。でも、それぞれ声質も、声の出し方も、出すときの気持ちも違い、なんなら勢い余って音程もズレます。同じメロディーを同じ高さで歌うというとたとえばジャニーズですね。SMAP。5人います。彼らの歌は果たして噛み合っているのでしょうか? 残念ながら答えはぷー。では果たして SMAP はグループとして噛み合っていないと言えるでしょうか?
こうした噛み合う / 合わないの感覚は確からしくもたゆたっていて、「微笑ましくも歌が全く噛み合っていない=グループとしては噛み合っている」というように、なんともファジーな領域を行き来します。ぼくと元希くんは SMAP の歌のようにして噛み合いません。だからこれまでぼくらは曲の中で交互に歌ったり、別のパートでそれぞれを発揮したりして音楽になってきました。ですが、この曲 における僕らの歌は SMAP のようにして噛み合っていると感じます。
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奥が元希くん / PHOTO:RIKA TOMOMATSU
最近リリースしたこの「おかしなふたり」という曲、ぼくと元希くんは何度も「あいらぶゆー」と声を重ねています。あいらぶゆー、は、ひとりで放つ言葉のはずです。歌を作っていたときはすごくパーソナルな気持ちで、元希くんと一緒に歌うつもりはなかったのですが、結局このツアーを通してぼくは元希くんと「あいらぶゆー」を一緒に歌っています。
バンドで、レコーディングというやつ。録音ですね。今回は元希くんより僕が先に歌いました。自分の歌の番のときにこの「あいらぶゆー」をふたりぶん歌っておいて、あとからひとつを元希くんに歌い直してもらうという流れ。先にぼくがふたりぶんを歌ったとき、エンジニアの馬場ちゃんや録音のジャッジ名人ろっきーは「(これはこれで)すごく良い。元希くんナシで(も)いいんじゃない?」と言いました。生演奏ではありえない、ぼくの声がふたつぴったり重なるかたち。録音という”現実”の上では作ることができる重なりは、虚構であり現実であり、美しくありました。うっとりするほどに。
月と太陽は、形は近いけれど公転の周期も大きさも違います。このふたつがぼくらから見てぴったり重なるのは月食と日食、特別なタイミングに限られた話で、特別なぶん神秘的だし立ち会えば感動するのですが、奇跡的なタイミング以外の月と太陽は一部が重なったり全然重ならなかったりです。
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左下がジャッジ名人ロッキー
レコーディングスタジオでぼくの声に元希くんの声が重なった瞬間、満場一致で、こっち採用。となりました。僕はもちろん、ろっきーや、馬場ちゃんが興奮していたように思います。なんとも感覚的ですが、不思議とその場の全員の意見が一致して、「よくわかんないけどみんなしてびっくりドンキーで幸せになったあの夜」みたいに、理論的に説明がつかないまま「これ!」と、元希くんとぼくの歌の重なりがその場の興奮と一致をかっさらいました。違う人間であればいつも、どちらかから見ればもう片方は離れたところに、または、自分からはみ出しています。録音が終わりに近づくにつれ、自分が、自分と元希くんの声が重なってはじめて成立する歌を作ったことに気付きました。考えてもわからないことが、聞けばわかる。はっきりと、この歌には僕と元希くんの声が重なることが必要だと。そう思う頃にはぼくはレコーディングスタジオのソファの上で、当たり前のような気持ちでした。ぼくの作ったうたに彼の歌声が必要なのも、ふたりが別の人間であることも、ぼくらはバンド以外で全く会わないし好きなものや考えていることが違うことも、同じものを好きなことも、当たり前だなあ。と思っていました。
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左が元希くん / PHOTO:RIKA TOMOMATSU
ぼくらはもう五年以上一緒にバンドをしています。LIFE という英単語の意味は、日本語では「生命」「人生」「生活」「実物」「活気」「生きがい」という感じ。どの意味ひとつだけでなく、これら全部を一通り並べてみてはじめて「LIFE」という言葉から英語圏の人間たちが感じ取るイメージを日本語圏のぼくが追いかけることができる気がします。ぎゃくに「愛」を英語に翻訳するときには、「love」以外にいくつかの英単語を用いないと、ぼくらが「愛」という言葉から受け取るなんともなんともなあれこれを英語圏のひとは腑に落とせないような気がします。
海外の作品には邦題がつく、という味わい深い習わし。「nevermind bollocks」=「気にもとめない。キンタマ。」を、「勝手にしやがれ」に翻訳する感覚。ぼくらは、どっちも知ることでセックスピストルズをもしかすると実物以上に膨らませて感受してきた。日本語遣いがうたう「あいらぶゆー」も、腑に落とすのにふたり分の歌声が必要でした。「おかしなふたり」は、 試聴サイトのみ「the queer couples」という英語のタイトルがくっついています。
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おかしなふたり CD ジャケット
手話で「あそぼう」は、頭の左右にそれぞれ立てた両の人差し指で空気に漂うなにかをぴゅんぴゅんと前に飛ばすようなかわいらしい仕草。チャンバラから派生したという説があるようですが、それなら自分の二つの人差し指でチャンバラする仕草でもよかったはず。これが採用されたのは、「(なにかを)飛ばすよ、気付いて、飛ばし返しておくれ〜」というかんじで、あそぼうという言葉から辿り着ける仕草の中で最もロマンチックなもののひとつだからじゃないか。とか考える。
こうして言語は行き来しながら重なったりズレたり、頂きから裾野までひとつのものが持ちうる広がりを感受して、勝手にひとの中でふくらんでいく。ズレがある方がおもしろいすよね。豊かっていうか。いろんなふうに勝手に解釈して期待していいっていうか。こっから先だなって感じするっていうか。ズレていいからってなんでも投げやりに雑にしていいわけではないですが、その場がその瞬間ゆたかであれば雑味さえ美に転換してしまう。ただ、ズレるためには、そしてそれが奇跡的に重なったときに神秘的なまでに感動できるためには、それぞれが太陽や月のように揺るぎないものであることをお互いが知っている必要があります。
なのに、大勢に埋没してズルをしたり、恋人とひとつになろうとしたり。ぼくもあいつもあのこもみんなどうしようもないばかだなあと思います。この毎日が地続きのまま、自分と全然違う相手とバンドをしたり、恋人になったり、同じものを食べたり、同じ場所ではたらいたり、家族になったりする。
今回のタイトルは、さいきん知り合った中でいちばんうつくしい感覚の持ち主だと思ったひとと同じ食事の席で互いが最初に頼んだメニューです。噛み合わなすぎた!
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藤原 亮 / Ryo Fujiwara
ギターを弾いて歌うひと
TAG : ニューユタカ , Ryo Fujiwara , こらむ
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