

お気に入りのレコードを選ぶような感覚で
読む。おどる。伝わる。出会いを紡ぐみそのうた。
#005 / お気に入りのレコードを選ぶような感覚で
PHOTO & TEXT / JUNYA KATO(DAYZ.)
高校生の時に聞いていた音楽を思い出してみる。
フィッシュマンズ、サニーデイ・サービス、スチャダラパー。スピッツやくるりが好きだったなんて友達もいて、ときどき CDを貸したり借りたりしていて、たまに誰かがものすごくおかしな、外国のヘビメタのCDなんかを持って来て、部室のラジカセの前で目と耳が点になっていたのを思い出します。あれがいいとかこれがいいとか。これはどうだ、これはいかんとなれば、むむむ、わからんやつだな、と。
じゃあこれならどうだ、なんて具合に、音楽だけじゃあなく、映画や小説、カップラーメンの味やファンタの味に至るまで、どうだどうだ、と。いま思えばプレゼンテーションの毎日だったように思います。大げさに話をするヤツも言えば、そっと机の上にオススメの本を置いて行くヤツもいて、「発信」の仕方はみんなそれぞれだったけれど、プレゼンするのもされるのも、1つ1つの情報が宝物のようで、楽しかったなあ、と。
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山梨は甲府にある老舗「五味醤油」は、明治元年から150余年つづく、みそ・しょうゆの醸造店。五味醤油と言うけれど、現在では「麹」や「甲州やまごみそ」の生産・販売を中心に、いろいろな「発酵商品」の取り扱いや、醸造の文化を伝えるための活動を県内外問わず行っています。お店の雰囲気はまるでレコードショップか雑貨屋。ブックストアかカフェのよう。例えば、大好きなミュージシャンのレコードを紹介するかのような感じで。オススメの雑貨を紹介するかのような感じで。昨日仕入れたとっておきの本や、今日の気分にあったコーヒーをそっと出してくれるかのような感じで「しょうゆ」や「みそ」や「麹」について話してくれるから、ぼくらは帰り道、つい、たくさんのみそや麹の商品を抱えて帰ることになるんですが、今回は、そんな、ちょっと変わった「イマドキ」な老舗「五味醤油」を拠点に、発酵兄妹として、メディアやワークショップを通じ、さまざまな啓蒙活動を行う五味兄妹に話を聞いて来ました。
本屋で出会った「読む」おみそ。
編集部が五味醤油の看板商品「甲州やまごみそ」にはじめて出会ったのは2014年の東京。音楽や演劇などの文化が集まる下北沢という街の片隅の B&B という本屋で出会いました。たくさんの本が所狭しと並んだ小さな本屋ですから、それだけ聞くと「え? 本屋にみそ?」と、疑問に思いそうなものですが、ごく自然に、あたりまえのように書籍と一緒に面陳されている「甲州やまごみそ」。気づいた時にはぼくらはそれを「読んで」いました。
五味醤油の甲州やまごみそは、お米と麦の2種類の麹をミックスした山梨独自のお味噌です。サッパリしているけれど、ほんのり甘い。発酵が止まっていないので、時間が経つにつれ、味わいが増す手作りの味をどうぞ。
本と一緒に置かれたやまごみそのパッケージには、こんな風に、甲州やまごみその魅力が大きく大きくシンプルに描かれています。
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表紙を開けたら、おいしい味噌汁
そう。だから、ぼくらはまるで立ち読みしていた本を「家でゆっくり読もう」と思い返してふっとレジへ持って行くような感じで、「みそ」と気になっていた書籍と雑誌を1つの袋へ入れてもらい、下北沢を後にしたのです。
表紙の言葉に噓いつわりなし。表紙を開けたら、文字通りおいしい味噌汁が出来た、という具合。サッパリとした『あわせ味噌』ですから、お味噌汁もサッパリ仕上がるので、朝、寝起きの1杯にもってこい(個人的には二日酔いの朝なんかにもってこい)です。塩分もキツくなく、隠し味にももってこい。野菜スティックなんかにも最適です。そして何より、シンプルな言葉に詰まった「おいしさを届けたい」という気持ちが、発酵と一緒にみそをどんどんどんどんおいしくしてくれているような印象さえあります。実際にこの「甲州やまごみそ」を作っている五味兄妹に会ってみると、この「伝えたい」という想いがとてもシンプルに備わっているのを感じます。
うたと絵本で伝える伝わる。
出会いを紡ぐ、手前みそのうた。
彼らの「伝えたい」という気持ちが形として表れているプロダクトの1つに手前みそ(自家製の手作りみそ)を作るための「手前みそのうた」があります。こどもにもわかるかわいらしいイラストに合わせてみそ作りのプロセスが歌になっていて、みそ作りの魅力を、頭で考えるのではなく、体(五感)で感じ、その歌に合わせて歌って踊れば、誰でも自家製のみそを楽しみながら学び、仕込むことができる素敵なプロダクト( ※2014年グッドデザイン賞を受賞 )
ここで抱く疑問が、味噌を作って売るお店が「家でみそを作る」ということを推奨するというなんとも気持ちのいい矛盾。本来「みそ」はそれぞれの家庭で作り方や味が受け継がれる文化がありました。けど「みそが売れなくなるくらい普及したら日本の未来は明るいですよ」と、笑いながら話す五味兄妹の優しい矛盾の中に、生業とする「みそ」への愛情や、日本食文化への敬意を感じることができます。
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おとなからこどもへ
こどもから、おとなへ
五味(兄)— 実はパッケージも絵本も「こうやれば伝わるであろう」っていう風に志をもってはじめたわけではなくて、イベントや出会いを通じてやっていくうちに気付くんですよね。大人に向けて「みそ」の魅力を普及しようとしてもなかなか届かないけれど、「おいしいみそしるが食べたい」っていうこどものひと声で親は振り向くんだって。例えば手前みそづくりのワークショップ1つとってみても、こどもが楽しそうに歌って踊ってみそを作っていると、後ろで立って見ているだけの親にも自然と笑顔がこぼれてくる。こどもからおとなへ伝えられるものもあるんだなって。
五味(妹)— それに、みそって作る楽しみだけじゃなく、作ったあとどう料理して食べるかっていう楽しみもあるので、そういったコミュニケーションが親子の間で生まれるのも素敵だなあと思いました。親子で参加することでたのしみが2倍にも3倍にもなるなあと。
さいごに
取材のあいだも、友人のカフェで購入したオススメの豆でコーヒーを淹れてくれたり、山梨で刊行されているオススメのフリーマガジンを紹介してくれたり、昨日、甲府にライブしにきたミュージシャンの話や、フェスの話、東京と山梨を行き来するカルチャーの話で盛り上がるんです。だから、昔からの技法で、ずっと前から続く蔵に佇む五味兄妹は、職人というより、友達って感じで。使い古された樽の「たが」の交換の話も、彼らが話すと「リペア」っていう感じで。着てる服も、聞いてる音楽も、たのしいって思うことも似ていて、同世代なんだなって強く感じました。
ぼくらのくらしの延長にある景色の中で、みその伝統を受け継ぐ発酵兄妹こと五味兄妹。そしていまも現役で働く5代目の父と、明るく店番を務めるハイカラなおかあさん。そして取材中、終始にぎやかだった息子のたろくんに囲まれて、1つの家族が、日本の食文化を支えている1本の大事な柱なのだなって改めて気付くと同時に、ぼくらはもっと、だいずをつうじて、例えばお気に入りレコードを選ぶような感覚で、食を楽しめたらなと、心のそこから思うのでした。
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五味醤油
〒400-0861 山梨県甲府市城東1丁目15−10
TEL:055-233-3661
FAX:055-232-5332
定休日:日曜・祝日(お盆・年末年始)
営業時間:9:00〜18:00
WEB:http://yamagomiso.com/
SHOP:http://yamagomiso.shop-pro.jp
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