

ぼくらが(だいずの畑へ)旅に出る理由 #03
みんなでだいずの種を蒔いてきました
#018 / 神奈川県南足柄市矢倉沢
TEXT / JUNYA KATO(DAYZ.編集長), PHOTO / YOSHITOMO KUMAGAI
早朝。初夏の低い太陽に照らされた畑の土。まわりを取り囲む山々は雲ひとつない青空とのコントラストで力強く、近くを流れる川のせせらぎは、この里山のみずみずしさを感じさせてくれる。東京から2時間とは思えない清んだ自然の中に身を委ねると、土のにおいがしたり、草のにおいがしたりする。日よけ用のタープが風を受ける。暑さの中、ときどき吹く風が心地よい。まだなにも手をつけていないまっさらな畑。みんなで『だいず』の種を蒔く。
2016年からはじまったDAYZ. による『だいずの農業体験イベント』は今年で3年目。この季節に行われる種まきは毎年好天に恵まれ(雨でもおかしくない時期なのです)、もちろん今年も良好。東京に暮らしながらも、畑を通じて『季節』を感じるようになるとは。東京でデスクワークをしながら、ときどき畑の天気を心配するようになるとは。4年前には考えられなかったことだけれど、今はすこしだけ贅沢だなと思える。
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そんな季節のうつろいや自然の魅力を感じながら、ぼくらの毎日の食卓に欠かせない『だいず』を『種』からみんなで育てる。土から栄養を吸い込んだ『だいず』は芽を出し、太陽の光を浴びながら力強く天へと伸びていく。梅雨や台風に耐えて、または雑草や虫に耐えて、花をつけ、実を膨らませる。収穫の秋が訪れ、たくさんの『だいず』が、春にはぼくらの食卓に届く。
そして、また種を蒔く。
あたりまえと言ってしまえばそれまでだけれど、その「あたりまえ」をあたりまえとせずに、想像するだけではなく(想像することも大事なんだけれど)、体験を通じて実感したり、考えたり、みんなで話し合ってみたり、理解しようとすることが、すこし大切かなと思ってこのだいずの農業体験イベントをはじめたのでした(初心忘れるべからず)。
東京から30人くらい
畑の上で待ち合わせ
舞台となる畑は神奈川県の西に位置する南足柄の里山『矢倉沢』。都心から電車とバスに揺られて2時間。東京からどんどんと離れ、路線バスでゴトゴトと山をあがっていく感じがたまらない。
東京からスタッフを含め約30人が、畑の上に集まる。友人も知人も、はじめて会うひとも、年齢も肩書きもあまり関係ないようなコミュニケーションが、畑の上で自然に行われる。だいずを育てたことがある頼もしい経験者から、去年おととしと参加してくれた熟練者、土にすら触ったことがない初心者(大歓迎)、『だいず』はそれがそのまま『種』だって知らないひと!まで、でも、この差も、DAYZ. の畑の上ではあまり大きな問題ではなくて、みんなで協力し合えば誰だってなんだってできる。それがこの種まきのいいところだなと改めて思う。腕っぷしに自信があるひとは、男女関わらず農具を担いで土を耕す。だいずのベッドを作るイメージで、ふわふわとした柔らかな土にしていく。農具は重くて、慣れてないとすぐに体が疲れるから交代で。畝(うね)の幅は3人1組ではかっていく。これがズレるとその先の作業がちょっと厄介だから、まっすぐかかどうかはみんなで確かめる。畝間も掘って、畑の上に小さな山と谷をこしらえる。
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だいずの種と
アイデアの種を蒔く
去年、だいずの種をおすそ分けしてくれた南足柄でパン屋を営む高橋さんも畑の様子を見にきてくれた(石窯で焼かれた無添加のパンがおいしくて毎回通っているうちに仲良くなって、だいずの畑の話をしたら「それならこれを試してみたら」と分けてくれた)。
最初の2年は南足柄の環境にあう地大豆を探すためにたくさんの種類を試しに蒔いていたけれど、今年からは去年、唯一たくさん獲れた(大豊作だった)高橋さんのだいずに絞った。
この種をこの畑で継いでいく。これがどんどん美味しくなって、たくさん獲れて、いつか『だいず』や『枝豆』が南足柄の名産品になればいいねと、畑の上でみんなと話す。例えばもっともっとだいずが獲れて、需要が増えて、今よりも参加者が増えれば、もっともっと土地が必要になってくる。そうすれば耕作放棄地が活かせる。みんなで集まってみんなで耕せば、地域の問題の解決になるかもしれない。そういうアイデアの種も、畑に蒔かれる。
プールにダイブするみたいに
土に飛び込んで!
25mプールくらいの大きさの畑が2つ。この畑は南足柄でペンション『まつが』を営む鈴木さんから借りている。ペンションに泊まった時に『だいず』の畑を探しているという話をしたら、「いずれ南足柄の地域活性になれば」と快諾してくれた(ペンションまつがはまるでジブリの世界に来たかのような里山の中の山小屋のようなペンション。特に鈴木さんの手料理がおいしい!南足柄に観光の際はぜひ!)
畑の準備が整ったら、いよいよ種まき。みんなで1列になって、『だいず』を蒔いていく。単純な作業かもしれないけれど、まさにプールに飛び込むような感じでぐっとしゃがみこんで、土に向き合うと、今まで見たことがない風景が広がる。さっきまで見えなかった小さな虫を見つけたり、土の香りとか、首を上げると山々の力強さを再認識したりする。お昼もまわって、お腹がすいてることにもだんだん気づき始めるころ、種まき完了。30人もいればあっという間(みなさんお疲れ様でした!)
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一緒に農作業をした仲間と
畑の上でバーベキュー
すぐ近くに病院があって、ときどき病院の窓から入院されてる患者さんや看護師さんが不思議そうにこちらを見ている。無理もない。高齢化が進む里山の、しかも畑で、フェスに遊びに来たみたいな格好の若者たちが楽しそうに農作業をしているのだから。それに、さっきまで汗水垂らして働いていたかと思えば今度はバーベキューが始まっている。これが本来の目的なんじゃないかというくらいみんなから一気に笑顔が溢れる。毎年恒例の農作業後のバーベキュー。
農作業のチームワークがここでも発揮される。野菜を下ごしらえするチーム、さっきまで振りかざしていた鍬(くわ)を鉄バサミに持ち替えて率先して火を焚べるチーム。焼くチーム食べるチーム。いつもと変わらないはずのバーベキューも、一緒に農作業をした仲間と、畑の上で食べるなら格別。かいた汗の分のビールを飲み干す。木陰でおしゃべりをする。川に遊びにいく。ふみくんがカブトムシの幼虫を見つける。
心地よいギターの音色と歌声と
矢倉沢は空が広い。暗くなるのも遅く感じるけれど、陽が傾くのは早く感じる。斜めに伸びた夏の日差しを全身で受けつつ、同時に夕暮れ前のゆったりとした空気に包まれる中、種まきに参加してくれたアコースティック・ユニット MIZ のふたりが、ギターを抱えてライブをしてくれた。
心地よいギターの音色と歌声と、おしゃべりを聴きながら、早朝と同じ場所に立ち、畑を眺める。もちろんだいずの芽はまだ見えない。土だけの畑。けれど、朝とはまったく違った生命力を蓄えた畑が、目の前に広がっているから不思議だ。
その後もずっと居心地が良すぎてみんなが帰りのバスを逃す。
ちなみにバスは1時間に1本です。
おしまい。
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枝豆の収穫体験の参加者を募集しています!
DAYZ.の農業体験 2018 #03『自然豊かな里山で大豆を蒔く』
2018年9月8日(土)*雨天時は9月15日
開催時間:11時〜15時(移動時間は含みません)
イベントの詳細・参加申し込みはこちらから
*畑には行けないけれど「食べて支援!」という方も一読ください!
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