

あかめとしろめ うさぎ おいし ふるさと
うさぎもよろこぶおいしいとうふ
#008 / 兎豆屋
TEXT / RENNA HATA PHOTO / JUNYA KATO(DAYZ.)
急に降り出した雨が、取材前に立ち寄った仙台東照宮の色濃い緑を濡らして、夏の空気をひんやりと冷ましていきました。
仙台市の北東に位置する玉手崎はなだらかな丘陵になっていて、風光明媚な場所とあり、かの徳川家康公が視察の帰り道にこの地で休息されたそう。仙台駅から一駅目、東照宮駅を降りたら踏み切りと川を越えて、街道沿いをしばらく行くと “とうふ” ののぼりがはためいているのが見えます。こんなところにとうふ屋さんがあるなんて。
雨空を見上げると、看板には、南天の実のような赤くてまあるい目の愛らしいうさぎが描かれていて、慌しい車の騒音はどこへやら、ほっこりした気持ちにさせられます。一見、和菓子屋さんや雑貨屋さんのようでもあるかわいらしい兎豆屋のお店のたたずまい。女性ならば最近はやりの和コスメのお店かしら?なんて思ってしまうかも。
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兎豆屋の店主である安達圭介さんは、東京都葛飾区にある老舗豆腐店“気合豆腐”として有名な埼玉屋で2年間みっちりと修行を積み、1年前に埼玉屋の血を引き継ぎ、自分のとうふの歴史を切り開いていくための第一歩として、この兎豆屋を故郷の宮城県・仙台市にオープンさせました。
そもそもなぜうさぎなのか。
それは安達さん自身が兎年であり、亡くなった大好きなお母さんが兎(うさぎ)年であったこと、そして尊敬する 気合豆腐「埼玉屋」 の師匠も兎年だったからだそう。まるでうさぎが見守ってくれているようなとうふ屋さんです。会社を辞めて、職人に憧れ、修行をし、そして、ふるさとで新しい人生をきりひらいた『とうふ職人』とはいったいどんな人なのでしょうか。
会社員生活にピリオドをうったきっかけ
とうふの“職人”になるための決意
もともとモノづくりに興味があった安達さん。以前はWEBディレクターとして会社に勤めていました。でも、会社にこのまま定年まで勤めるつもりもない、独立するのも違うと感じていたころ、せっかくならなにか職人になって、モノづくりの道をとことん極めてみるというのも面白いのではないか…と、考えました。目にとまったのは、老舗のとうふ店『埼玉屋』の見習い職人募集の web ページ。そこにはまさに憧れの職人の世界があり、安達さんの胸は高鳴りました。
安達 ー そのとき僕は37歳で、結婚もしていたし、今さら単身で見習い修行なんて現実的じゃないよなぁ、とあきらめていたんです。それでも一度食べてみたいと思い、埼玉屋のとうふを取り寄せてみることに。包丁を入れた瞬間にわかっちゃったんですよね。「あ、これ絶対うまい」って。一口で「職人への憧れ」は確信に変わりました。
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憧れの『職人』という第二の人生
はじまって気づいたこと
37歳の見習い生は師匠のもとで2年間とうふを造り続け、自分の第二の人生を決めたとうふの造り方をからだに染み込ませていきました。
安達 ー サラリーマン時代は誰かの仕事を『できる』からやっていただけで、好きなことをやっていたわけではなかった。師匠に怒られることも、落ち込むこともあったけれど、自分の店をもちたい、おいしいとうふを造りたいという情熱の火が消えることはありませんでした。あー、今日仕事行きたくないな、とか、そんなこと思わないんですよ。毎日「おいしいとうふを造りたい!」って思ってましたね。
その火に毎日心かき立てられ、日々の仕事にますますのめりこんでいく楽しさ。会社員として働いていた日々とは仕事に対しての意識がまったく違ったと、安達さんはいいます。
選び抜かれた『ふるさと』だいず
師匠には真似させない兎豆屋オリジナル
店内の冷蔵庫の中に並ぶふんわり白くて新鮮なとうふたち。目を引いたのは「シロメ絹」「シロメおぼろ」。由来は「ミヤギシロメ」という宮城県産のだいず。宮城県は大豆の栽培面積が北海道に次いで第2位の産地。大粒で甘みがあるのが特徴で、とうふには最適の品種として注目されています。
ふるさとの「ミヤギシロメ」はお前の好きにやれ、という師匠の下で、にがりの量や、風味の引き出し方、堅さなど、身につけた職人技術を駆使しながら自分の力でたどりついた味がこの兎豆屋の人気とうふ。工場で造られ、求めやすい価格としてスーパーに並ぶとうふに、わたしたちの舌はすっかりそれに慣れてしまっています。確かにスーパーに比べると安くはないかもしれない。だけど、こうしてていねいに作られた宮城という土地ののだいずの味を知ると、そのすがすがしさと風味のまろやかさに、価値の意味を発見できるかもしれません。
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口コミで広がっていく
うさぎもよろこぶおいしいとうふ
お店を訪れたのは午後3時過ぎ。次から次にとうふを求める人々が兎豆屋の戸を開きます。迷いなくショーケースからとうふを選んでたくさん買っていく人もいれば、じっくり悩んで1つ2つそっとレジに持ってくる人も。お店に並ぶほとんどの種類を買い込んでいた夫婦は、お盆に帰省する際、ご家族への手土産にするのだとか。とうふ屋には似つかわしくない若いカップルは「スーパーで買っていたとうふとは味が違います。まろやかで、味が濃い!」と絶賛。特に目立った宣伝はしていないのに、そのおいしさは宮城という土地で、じんわり口コミによって広がっていき、1周年を迎えた兎豆屋はすでに多くのファンの心を掴んでいるようです。とうふを前に長い間どれにしようか悩んでいた若い男性、ハイヒールの女性に、車でやってきたおばあちゃんなど客層は本当にさまざま。ひっきりなしにお客さんが出入りするので、工房と店内の間にあるしきりをご主人はまるでうさぎのようにかろやかに、ぴょんぴょん飛びはねてまたいでいきます。
さいごに
兎豆屋の WEB 、デザイン、twitter や facebook での発信、どれをとっても、従来の「とうふ屋」のイメージとは一線を画します。「わかりやすさ」や「えらびやすさ」も、「おいしさ」とおなじくらい大切な要素だと気づかせてくれます。一見交わらない『とうふ』と『クリエイティブ』の世界が軽妙に組み合わさって、兎豆屋はかろやかに世界を広げていくかのようです。
そして、老舗の味をしっかりと伝えていく役目を果たしながらも、新たなとうふの世界を切り開いていく若い力。『客』の目線からはじまった「とうふ屋」だからこその気配りとも言えます。
ありきたりな言葉かもしれないけれど、「おそすぎることなどない」のだと思うのです。なにごとも。
どことなくうさぎに似ている安達さんの顔を眺めながら、そんなことを考えました。
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兎豆屋(とまめや)
〒980-0002 宮城県仙台市青葉区福沢町4-52
TEL:022-209-4325
営業時間:6:00~19:00(定休日:毎週日曜日)
WEB:http://www.tomameya.com
MAIL:info@tomameya.com
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